出荷判断に至る過程について
2011年に名取と荒浜で収穫された綿の出荷は問題ないと判断しました。
その根拠については、別ページの測定結果(名取・荒浜)によりますが、当方が検討した過程についてもご説明いたします。
1、はじめに
出荷判断について、本プロジェクト原則をご説明します。
- 公共の利益
復興を目的とする本プロジェクトの精神に則り、公共の利益を一番に考えて行います。放射能測定の結果、問題があるレベルの放射線量が確認されている場合は、決して出荷を行わないことをお約束いたします。 - 第三者機関
第三者機関である東北大学 大学院理学研究科 原子核物理研究室に検査を依頼し、
客観的、科学的事実を元に判断を行います。
次に、放射線量について問題がないレベルと判断するに至った過程について、検討内容をご説明します。
いろいろなデータを調べる限り、土壌から綿への放射能物質の移行係数は非常に低く、また綿がコットンボールというものに包まれ成育中に外気に触れていない事から、綿に含まれる放射線量はきわめて微量と想定されますが、試験環境などの限界により、実際の放射線値を特定することは科学的に困難です。したがって、安全を最優先に考え、最悪の場合である、仮に検出限界値ぎりぎりの放射線量が含まれていた場合のシュミレーションを行うことで、安全性を確認しようとしました。
2、外部被ばく
まず、名取の試料1の検出限界と同じ134Cs が 21[Bq/kg]、137Cs が 47[Bq/kg]含まれる
綿1[kg](Tシャツの場合200g程度)を 身にまとうと考え、
この綿による一時間あたりの外部被ばく線量を概算しました。
放射線は全ての方向に等しく放出されると考えて良いので、
セシウムから出てくるγ線の半分が体に当たると仮定します。
(下図のようなイメージ⇒12個のうち6個の放射線が体に当たる)
134Csは1[Bq]あたり主に2個のγ線(エネルギーは605[keV]と795[keV])を出し、
137Csは1個のγ線(エネルギーは662[keV])を出します。
体に当たったγ線は体内で全てのエネルギーを失い、体を突き抜けて再び外に出てくるものはないとし、
セシウムの量も時間と共に減少しないものとします。
γ線が全身に均一に当たるとすれば、体重60[kg]の人が受ける一時間当たりの線量[Sv/h]
(ここでは[J/(kg h)] と同じ意味で一時間当たりの実効線量を表す)は
線量[Sv/h] = {21[Bq/kg] × 1[kg] × (605[keV] + 795[keV]) + 47[Bq/kg] × 1[kg] × 662[keV]} × 1.6 × 10-16[J/keV] × 3600[s] / 60[kg] / 2(放射線の半分が当たる) = 2.9×10-10[Sv/h]
となります。(*1.6×10-16[J/keV]はエネルギーの単位を換算する係数です。)
以上より綿1[kg]を 全身にまとう際の外部被ばく線量は
2.9×10-7[μSv/h](0.00000029[μSv/h])と見積もることができます。
例えば東京における平均的な空間線量は0.06[μSv/h]ですからその20万分の1程度の線量です。
3、内部被ばく
今回、綿は主に衣服に使われるので、内部被ばくの可能性はきわめて低いですが、
安全を最優先に考え、仮に今回検査した名取 試料 1 の最悪ケースである134Cs が検出限界と同じ21[Bq/kg]、137Cs が47[Bq/kg]含まれる綿を誤って 1g 吸引した場合のシュミレーションを行いました。
(これだけの量を通常の環境で吸引することはまずありえませんが、被ばく線量を計算するために あえて1g 吸引したと仮定します)
国際放射線防護委員会(ICRP)によって定められている実効線量換算係数を用いて
体内に取り込まれた放射性物質の量[Bq]から実効線量[Sv]3を算定します。
大人における134Csと137Csの実効線量換算係数はそれぞれ
134Cs 1.3×10-8[Sv/Bq]
137Cs 2.4×10-8[Sv/Bq]
ですから、
計算式(実効線量[Sv]=経口摂取量[kg]×放射能濃度[Bq/kg]×実効線量換算係数[Sv/Bq])にあてはめて
実効線量[Sv] = 0.001[kg] × 21[Bq/kg] × 1.3 × 10-8[Sv/Bq] + 0.001[kg] × 47[Bq/kg] × 2.4 × 10-8[Sv/Bq] = 1.4×10-9[Sv]
となり、これより試料1の検出限界相当の綿を1[g]吸い込んだときの実効線量は
0.0014[μSv]と見積もることができます。
また、セシウムと化学的性質が似た元素にカリウムがありますが
カリウムは身の回りに多量に存在する元素のひとつであり、
地球上のどこにいても40K(半減期 12.8 億年)の放射線による被ばくは免れません。
また、放射線の人体に対する影響という意味で、カリウムとセシウムは違いはありません。
人体内のカリウムの量は体重の0.2%であり、
自然界に存在するカリウムの0.0117%が放射性の40Kなので、
60[kg]の人の40Kの放射能は約4000[Bq]と見積もることができます。
綿1kgに134Cと137Csの検出限界の合計が68[Bq/kg]含まれていたとしても、
体重が1[kg]増えたときの40Kの放射線増加量(約4000[Bq]/60[kg]=約67[Bq/kg])にほぼ相当する程度です。
またこの40Kは多くの食品に含まれており、例えばバナナ1本約100gを食べることによる被ばく線量は
バナナ1[kg]には約 150[Bq/kg]の40Kが含まれており、
40Kの実効線量換算係数は 6.2×10-9[Sv/Bq]であることから
実効線量[Sv] = 0.1[kg]×150[Bq/kg]×6.2×10-9[Sv/Bq] = 0.09[μSv]
であり、上述の綿はこの64分の1です。
また、ストロンチウムについては、α線、β線を発する核種で、内部被ばくの恐れのみなので、
その可能性がきわめて低い事から計測自体を行っていませんが、その影響を最悪ケースを想定し、
シュミレーションしました。
「文部科学省による、プルトニウム、ストロンチウムの核種分析の結果について」によるストロンチム89/90の核種調査によれば、セシウム 137 に対するストロンチウム 90 の沈着量の比率は
1.6×10-4〜5.8×10-2(平均:2.6×10-3)です。
名取の試料1綿に、同じく最悪ケースとしてセシウム 137が検出限界まで含まれていたと仮定します。
上記のストロンチウム90の沈着量の比率の最高値である5.8 x 10-2を最悪ケースとして想定すると、
綿に含まれるストロンチウム90は2.7[Bq/kg]です。
この綿を 1g 吸入すると仮定した場合、
ICRP Publ.72 より大人がストロンチウム 90 を吸入摂取した際の実効線量換算係数は 1.6×10-7[Sv/Bq]なので、
実効線量[Sv]=吸入摂取量[kg]×放射能濃度[Bq/kg]×実効線量換算係数[Sv/Bq] より
0.001[kg]×2.7[Bq/kg]×1.6×10-7[Sv/Bq]=0.00044[μSv] と見積もることができます。
プルトニウムに関しては同じく上記「文部科学省による、プルトニウム、ストロンチウムの核種分析の結果について」の調査により、その放出量がきわめて微量であるため、問題ないと判断しました。